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John Kanaya’s Will

John Kanaya’s Will

Special Interview

切り拓く者

Vol.4

旅をすることで見えてくるものがある。


作家

山口 由美氏

山口 由美

世界を旅するノンフィクション作家であり、富士屋ホテル創業者の一族でもある山口氏と旅を結ぶものとは…。

出会いで繋がれた箱根の家。

箱根で生まれ育ち、学生時代は登山電車で通学されていたそうですが、お気に入りの景色はどこですか?

箱根の小学校は遠足といえばハイキングでした。小涌谷から山に行くコースがあり、小涌谷の登り口に千条の滝があります。涼しく、心地よかったことを覚えています。大人になり、改めて価値を実感しました。

スロヴェニアのブレッド湖やイギリスの湖水地方など、世界の風光明媚といわれる景色の多くが箱根に似ていると書籍で書かれていますが、箱根の自然は独特なものなのでしょうか?

ブレッド湖は旧ユーゴスラヴィアの建国の父・チトー大統領が我が国の宝だと迎賓館を建てたほどの場所です。そのブレッド湖を旅した時に、箱根に似ていると感じました。箱根は雄大ではなく、箱庭的です。小さく繊細にまとまった自然が世界共通で美しいもの、愛でるものだと、世界を見ることで箱根の魅力に気づかされました。

今お話を伺っているこの場所、箱根・大平台の「スパ アット ヤマグチハウス」は富士屋ホテルの創業者の一族であり、山口様の祖父である堅吉氏が建てられた邸宅で、登録有形文化財に登録されたそうですね。

1930年に建てられた洋館ですが、家族と過ごすためのものでした。当時の洋館の多くはお客様におもてなしをするためのもので、家族の生活の場には和室が用いられるのが普通でした。洋館が自宅である珍しさも登録有形文化財になった理由のひとつです。

ご自宅を改装し、「スパ アット ヤマグチハウス」になった経緯をお聞かせください。

家を受け継ぐのは大変なこととはわかっていましたが、祖父と父が守ってきたものですから守り続けたいという思いでした。家の活用方法に悩む最中、十年来通っているサロンで、オーナーである西田若葉さんの施術を受けながら何の気なしに家の話をしました。そこで思いがけない言葉が返ってきました。「箱根でスパを開きたい」と。そこから話が進み、文化財の修復を得意とする設計士の方も紹介していただき、家を改装しスパを開業することになりました。

素敵な出会いですね。「スパ アット ヤマグチハウス」ではどのようなトリートメントをされていますか?

アーユルヴェーダ(※1)です。西田さんは日本でいち早くアーユルヴェーダを紹介したスパ業界の第一人者で、そもそも私が彼女のサロンに通うようになったきっかけは父でした。そして彼女もまた、ホテリエとしてホスピタリティのあり方の道を示した私の父の教えに感化され、実践している一人です。こういった出会いの繋がりで「スパ アット ヤマグチハウス」は成り立っています。

富士屋ホテルと金谷ホテルも縁がありますが、鬼怒川金谷ホテルを創業したジョン金谷鮮治氏とお会いする機会はありましたか。どのような印象をお持ちですか?

記憶に残っているのは金谷家の華やかさです。子供心にも強烈なものがありました。鮮治さんは一言で表すと格好いい人。実は昔の人の方が格好よかったのではと思わせる存在です。

旅という逃避からくつろぎが得られる。

旅やホテルをテーマにした書籍を多く出版されていますが、元々、旅行記や小説を読むのはお好きでしたか?

中学生の頃からノンフィクションが好きで、『極限の民族』という作品を夢中になって読んでいました。エスキモー、ニューギニア、中東のベドウィン、この3つの民族と生活をともにして書かれたルポで、中学生の私は、3つある中でエスキモーはNG、ニューギニアはOKと、誰にもそこに行けと言われていないのに選んでいましたね。後にニューギニアに行くことになり、私にとってパプアニューギニアの原点となった本です。

『旅する理由』という作品の中で「人はなぜ旅に出るのだろう」と問いかけ、「実は逃避するためではないか」と書かれていましたが、今もその思いは強いのでしょうか?

そうですね。日常が忙しいので、仕事であっても、旅は普段いる場所からの逃避になります。旅に出ていること自体が楽しく、くつろぎの中で仕事をしている感覚ですね。距離が遠ければ遠いほど心から安らげ、辺境地に行くと一番リラックスできます。

旅先でも執筆されているのでしょうか?

旅が終わるまでは書きません。旅先で書くと、その旅に何のために来たのかわからなくなるので。自分が感じたことは帰ってから再生できるのでメモもあまり取りません。ただ、プライベートの旅であっても、何か仕事の題材にならないかと考えています。ホテルの宿泊となれば尚のことです。

旅の中でホテルのスタッフとの印象に残る出来事などあればお聞かせください。

アフリカ南西部のナミビアにあるリトルクララというホテルではソーサスフレイと呼ばれる美しい砂丘を見るエクスカーションがあります。ホテルのスタッフと砂丘に登って下りてきたところでサングラスを忘れてきたこと気付き、スタッフにお願いすると取りに行ってくれました。暫くすると、そのスタッフはサングラスをみつけ、やったぞ!と叫び転げ落ちながら下りてきたのです。炎天下でつらいはずなのに、こちらのリクエストにノーと言わず、無理難題を喜びと共に還元してくれるアフリカンホスピタリティに感動しました。

ホテルの「おもてなし」、「ホスピタリティ」について、どう思われますか?

生前父は、もてなす側ともてなされる側が対等でありながらも、もてなされる側であるお客様の気持ちや便宜を最優先する関係が現代のホスピタリティのあり方だと説いていました。日本のおもてなしは、お客様が望むであろうものを先読みして提供することです。一方、欧米的なホスピタリティは、お客様が指示するタイミングで、求められたことをやる。つまり、旅館の仲居とホテルのバトラーの違いのようなものです。どちらが良い悪いという話ではなく、もてなされる側のお客様によって受け取り方が違うということを理解することが重要ではないかと思います。

では最後に、リゾートホテルでの楽しみ方、くつろぎ方、また鬼怒川金谷ホテルならではのお勧めの過ごし方を教えてください。

そのホテルのロケーションにあわせた楽しみ方をすることですね。鬼怒川金谷ホテルであれば、渓流の景色を満喫したい。テラスでお茶を飲むひとときはもちろん、鬼怒川にかかる橋をめぐる朝のジョギングもお勧めです。コースが掲載されたマップも用意されています。

※1) アーユルヴェーダ
インドに古来から伝わる健康法で、病気を予防し、長寿や若さを保つことを目的としている。それに基づくオイルトリートメントは身体の新陳代謝の促進が期待できる。

Pofile

山口 由美

山口 由美

1962年、神奈川県箱根町生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。旅とホテルを主なテーマに幅広い分野で執筆。『アマン伝説』『日本旅館進化論』『箱根富士屋ホテル物語』『考える旅人 世界のホテルをめぐって』など著書多数。

山口 由美

スパ アット ヤマグチハウス

「スパ アット ヤマグチハウス」では歴史が刻まれた空間の中、カスタムメイドの本格派アーユルヴェーダを温泉とのコラボレーションで提供している。
http://www.yamaguchihouse.com