issue 14

栃木が世界に誇る
「日光杉並木街道」へ

栃木が世界に誇る「日光杉並木街道」へ

名史跡「日光杉並木街道」。天高く連なる杉の大古木は、まさに生きた歴史です。江戸時代に日光東照宮への参道、街道としても整備された全長37kmの杉並木はなぜ生まれたのか。魅力ある歴史と物語を辿ります。

世界に誇る杉並木道

まっすぐに天高く樹冠をつきあげる杉の大木たち。青々と茂る針葉の下は苔におおわれた古い杉の木肌。その一列にならんだ杉並木の間をゆるやかなカーブを描いてつづく古の街道。水路のはしる道脇には、春はヨメナやガクウツギ、夏はコアジサイ、秋はシュウカイドウやミズヒキなどの山野草が美しく咲きます。
「日光杉並木街道」は全長37kmもの道の両側に1万2千本以上の杉がならぶ歴史ある杉並木道です。日光街道、例幣使街道、会津西街道の三街道におよぶこの杉並木道は、徳川家康の家臣、松平正綱が二十年の歳月をかけて二十万本あまりの杉苗を植樹し、家康の三十三回忌に寄進した日光東照宮の参道でもありました。

平成4年に「世界一長い並木道」としてギネスブックに認定。栃木の人の毎日の散歩道やウォーキングコース、ランニングコースとしても愛されています。多くの観光客が足を運ぶ日光杉並木街道ですが、毎年8月には「杉並木マラソン」も開催され、全国のランナーがSNSで紹介するランニングスポットとしても知られています。

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ガブリエルロアール

「末」を見通す杉並木の歴史

江戸時代の初め、文禄1年(1592)に若くして徳川家康に仕え、駿府の勘定頭として活躍した松平正綱公。忠臣として家康からの信頼も厚かった正綱は、主君の臨終の際には遺言を聞きとり、日光東照宮での葬儀でも大役を務めあげました。

家康への報恩の念もあり、正綱は日光東照宮の法会の供奉行、社殿の修復奉行として力を尽くします。家康亡き後、江戸幕府がスペイン船の来航を禁じ、鎖国へとむかう寛永6年(1629)ごろから、正綱は日光杉並木のための植樹と参道兼街道の整備にとりかかります。当時の主だった参道には松が植えられました。しかし、正綱はその慣習を良しとせず、紀州から大量の杉苗を船で取り寄せて育てます。松より雨に強く、樹高もあり、頑強で寿命も長い杉は街道造りにうってつけでした。また、参道としての用途のみならず、今後は江戸からの人流と流通が急速に拡大することを予見した正綱は、背の高い杉並木が日光街道の優れた道標になると考えたようです。
正綱の明察は見事に的を射て、後代の参詣大名や江戸庶民からも好評でした。しかし、植樹の当初、松から杉への転換は諸大名から批判が相次いだようです。ところが、正綱は「末をご覧あれ」と一蹴したといわれています。作家の司馬遼太郎も、正綱の「末」を見通す力を讃えて評価しました。

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鬼怒川金谷ホテルの「日光十二景」

松平正綱公が「松より杉のほうが神気がある」と考えたように、天をつくように高くうっそうと成長した日光杉並木街道は、日光東照宮の参道にふさわしく荘厳な神気をみなぎらせていました。杉並木はたちまち日光の名勝として讃えられるようになります。
その杉並木の人気を物語る浮世絵版画が、鬼怒川金谷ホテルの一廓に飾られています。
日光の鬼平金四郎が出版人となり長谷川竹葉が作画した、明治14年(1882)出版の「新輯 日光十二景」がそうです。金四郎は「日光山名細記」などを上梓して、日光の観光案内に力をそそいだ出版人。長谷川竹葉は歌川国貞の門人であり、明治期に活躍した浮世絵師でした。竹葉は華やかな極彩色とシャープな描線、遠近法をもちいて描いた煉瓦造東京駅舎が評判をとり、開化絵、団扇絵の名手とうたわれました。当時の竹葉は「東京名勝開化真景」を筆頭に、全国から名勝絵の注文が絶えない売れっ子絵師。金四郎はその竹葉を起用して、「日光十二景」を描かせたのです。

竹葉が迫力満点に描く龍王峡、荘厳な日光東照宮などの名勝絵の随所に、日光街道杉並木は登場します。うっそうと万年青に茂る日光杉並木街道の存在は、それぞれの日光名勝に、なくてはならない神秘的なムードを与えているのです。

2021年11月掲載

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