issue 17
鬼怒川金谷ホテルからドライブで行く「霧降高原」は、日光連山の峰々に抱かれた雄広な草原地帯。秋は錦秋と草紅葉に彩られ、夏はニッコウキスゲの咲く天国のような高原です。そんな霧降高原の秋と夏をご紹介します。
鬼怒川金谷ホテルを車で出発して、国道一二一号線を北へ。龍王峡の水と岩の絶景、川治温泉の鄙びた村落を通過し県道二三号線を鬼怒川に沿って西へ。五十分ほどのドライブを愉しむと霧降高原道路(県道一六九号線)に入りました。霧降高原一帯には草原を活かして造営された「大笹牧場」と、ニッコウキスゲで有名な「日光市霧降高原キスゲ平園地」があるのです。
十分ほど霧降高原道路を走ると、放牧地を囲む白い柵がでてきました。赤や黄金に紅葉した広大な牧草地を眺めてドライブすれば、錦秋のカーペットを疾走する心地です。丘の上に列ぶ牛たちのシルエットが、高く澄んだ秋空と鰯雲の中へ吸われてゆくよう。山の中腹に「大笹牧場」の赤い円錐形の屋根が見えてきました。
車から降りると、爽やかな秋風にのって乾いた草竪琴が聞こえてきます。空気がおいしい…そして四方は三百六十度、見渡す限りの紅葉、紅葉、紅葉。茜色に深支子色、柿色に栗色、様々な秋の色合いで、大パノラマの紅葉の絨毯が日光連山と霧降の原に繰り広げられていきます。栃木屈指の〝隠れ紅葉スポット〟に心が震えました。
「日光市霧降高原キスゲ平園地」は、日本で最も高い標高に位置する半自然草原のひとつ。標高一三〇〇メートルにある霧降高原レストハウスを起点に、標高差二三五メートル、一四四五段におよぶ「天空回廊」の階段が小丸山展望台までまっすぐ続きます。
四季を通じて登山客の絶えない霧降高原ですが、とくに梅雨時のニッコウキスゲの花畑は見事です。ニッコウキスゲは多年草でオレンジに近い黄色の花をつけますが、日光に多く自生していることからこの名前がつきました。
緑の森林とクマザサの草原を貫いて、山の勾配に設えられた天空回廊の階段を一歩ずつ上へのぼっていきます。あたりには濃い緑の香がたちこめ、いたるところに、ニッコウキスゲの黄色い花とカラマツの白い花。七月中旬の最盛期には、キスゲ平の草原の緑は、ニッコウキスゲの黄色い絨毯へと塗り替えられてゆくのです。
霧降高原 アサギマダラ
花から花へ水色の蝶が舞い飛んでいました。旅する蝶、アサギマダラたちです。この蝶は台湾や沖縄から日本列島を北上して、空の大旅行の途中、好物のヨツバヒヨドリの花を目指して霧降高原に立ち寄るのです。
キスゲ平は標高一六〇〇メートルまで続いています。かつて全国にあった半自然草原は、いまは年を追うごとに少なくなってきているそう。四季折々、約百種類もの花や稀少な高山植物、珍しい山の野鳥や蝶などの自然を満喫できます。春から初夏にかけては山野草が芽吹き、マンサク、カタクリ、ツツジがやわらかな新緑のあちこちで可憐な花を灯します。
天空回廊の階段は後半にかけていくつかの展望台があり、そこから日光連山の雄大な風景を眺望することができました。昇り階段はややきついものの、登山に馴染みのない方でも、途中の散策路や展望台で休憩をはさみながら、本格的なトレッキングとネイチャー体験を愉しむことができます。
一歩ずつ頂上に近づくほど、霧降高原の名にふさわしく、山は幻想的な霧に包まれ下界の眺望も遠く霞んでゆきます。気分は仙人になったよう。風も湿りをおび冷たくなってきました。音の世界も、ウグイスの伸びやかな歌唱やキビタキの変拍子から、クマザサがさやさや鳴るだけの神秘的な静寂へと変化します。
息を心地好く弾ませ、天空回廊の終点、標高一五八二メートルの小丸山展望台へ到着すると、最高の見晴らしに歓声があがりました。幾重にも連なる栃木の山々の果てに、富士山の優美な姿が遠望できます。その数分後、光を纏う富士の嶺はまっ白な雲海にのまれてゆきました。人間よりも大きな自然が、じつは儚く移ろいやすい存在であること。そう感じ入ったひとときは、多忙な日々では得られない豊かな時間でもありました。
「ホテル滞在とは心豊かに過ごす旅である」と書いたのは『トム・ソーヤの冒険』の著者、小説家のマーク・トウェインです。霧降高原での自然体験や感動は、鬼怒川金谷ホテルでお過ごしになる寛ぎのひとときを、よりいっそう心地好く、味わい深いものにしてくれます。
2022年8月掲載
所在地: 〒321-2792 栃木県日光市瀬尾字大笹原3405
当館より車で約60分
営業時間:8:45~16:45(4月~11月)、9:30~16:00(冬季)
定休日:1月4日~2月末日の水・木曜日
電話: 0288-97-1116
所在地: 〒321-1421 栃木県日光市所野1531
当館より車で約60分
営業時間:9:00~17:00(4月~11月)、9:00~16:00(12月~3月)
定休日:年末年始(1月1日は臨時開館)
電話: 0288-53-5337
issue 25
issue 24
issue 23
issue 22
issue 21
issue 20
issue 19
issue 18
issue 17
issue 16
issue 15
issue 14
issue 13
issue 12
issue 11
issue 9
issue 8
issue 7
issue 6
issue 5
issue 4
issue 3
issue 2
issue 1