issue 2
鬼怒川金谷ホテルのショコラバーで取り扱われているショコラは、創業者であるジョン・カナヤこと金谷鮮治が愛したもののひとつです。2012年4月の鬼怒川金谷ホテルリニューアルオープンと同時期に、株式会社「JOHN KANAYA」が創業。2013年には恵比寿にショコラトリー「JOHN KANAYA」本店がオープンしました。ブランドの中心的存在であるボンボンショコラをはじめ、その開発を手がけているのはショコラティエ・野口和男氏です。
40代からショコラティエに転身した野口氏は国内老舗名門菓子店、星付きレストラン、有名ファッションブランドなどのチョコレートを手がけてきた異色のキャリアの持ち主。「JOHN KANAYA」に野口和男氏を訪ね、ショコラづくりの哲学についてインタビューしました。
野口さんはJOHN KANAYAをはじめ、多彩なブランドや企業とお仕事をし、プロデュースもされてきました。プロジェクトを成功させる秘訣とは?
自分の使命が見つかるまで、とにかく、とことん、時間をかけて企業やブランドと対話するということですね。5分で終わる対話を30分つづければ、相手のこともよく理解できて、じつにさまざまなアイデアが降りてきます。そこに辿り着くまではすべてタッグですが、そこから先はチョコレートの表現者としての私の仕事になってゆきます。企業やブランドと長時間、丁寧に話しあいながら、いかに相手の想いを読みとれるかが鍵になってきますね。
JOHN KANAYAブランドのショコラとして特に意識されたこととは?
JOHN KANAYAは紳士的なブランドです。美味しさの追求はもちろんですが、金谷の名に恥じないショコラをいかにつくりあげてゆけるか。もうひとつは、西洋の文化をJOHN KANAYAというフィルターを通して伝えること。今回、このふたつが使命と感じました。このプロジェクトは、時代的に、とてもタイムリーでしたね。機能や効率ばかりを追いかける時代に、「JOHN KANAYAのショコラ」という新しい時代の窓を開くことができたと思います。
JOHN KANAYAのショコラが表現する西洋文化とは?
代表的なボンボンショコラには、古くから西欧の手紙に封印を施すため伝えられているシーリングワックスをあしらいとして使用しました。ギフトに選ばれることが多いボンボンショコラにとって、このあしらいは、想いと美味しさをともに封じて贈る証です。一方で、ハイヒールに見立てたショコラ ドゥ ラリュールは、「エロティックなショコラ」というアイディアにもとづいています。ある意味で、大人の品のある色気がないところからJOHN KANAYAの商品は生まれないと思いまして。それぞれのショコラをどのような方に、どんな情景で、どう食していただきたいか。美しく食す姿まで想像できると、ショコラの形やサイズまで見えてきます。
華やかに並ぶボンボンショコラ
JOHN KANAYAのショコラならではの特長や魅力をお教えください。
ショコラにリキュール(酒)をダイレクトに使用しているのが最大の特徴だと思います。ほかのショコラでは、ここまでお酒の風味を出せません。力強いリキュールとチョコレートの味覚をコントロールするため、南米のカカオ豆を使用したクーベルチュールなど余韻の長いチョコレートをつかっています。JOHN KANAYAのショコラづくりで最後まで一番こだわったのは、「バランス」です。「オーガニックだから、ハイカカオがトレンドだから」使用するのではなく、素材とのバランスにより、リキュールとチョコレートの味と香が最大に引き立つよう追究したのが、JOHN KANAYAのショコラです。あと、このショコラは、贅沢な余韻を楽しんでいただきたいですね。ショコラを口に入れた瞬間の芳醇な味わいやフレーバーのみならず、舌のうえでチョコレートがゆっくりとろけてひろがり、体温とともに味も香もどんどん変化していきます。上質のスコッチやワインが、そうであるように。それも、JOHN KANAYAのショコラの魅力のひとつではないでしょうか。
ジョン・金谷鮮治との出逢い、最初の印象をお聞かせください。
私は43歳でショコラティエになりました。それまでは機械関係の世界にいました。だからといって、独学でも真摯に向き合えば、得られない情報なんてないと思います。良い商品に備わっているのは、そこに携わる人たちがどう関係し、仕事をして生きたのかという質の高さでもあります。レセプションパーティーで初めて金谷譲児社長とお会いしたとき、想像していた「社長」とはまったく違う印象を受けました。スタイリッシュで、とても爽やかなお人柄で。人となりはブランドにもあらわれます。また、かつての高度成長期の日本で、自分の理想のホテルやレストランを思うがまま追いかけ、自在に生きたジョン金谷鮮治の姿にも魅力を覚えましたね。とはいえ、ショコラづくりにはブランド・イメージとの距離感も大切です。ダンディズムを演出しすぎると、過度に男臭くなってしまいます。そうならないための絶妙なラインをショコラティエとして見抜くのも、私の仕事です。
今の時代はライフスタイルへの関心が非常に高いです。そのなかで、男性のライフスタイルも多様化しています。西洋では、男性が女性に花とともにチョコレートを贈る姿がよく見られます。
今、女性の目線から開発された商品はたくさんありますよね。でも、男性が女性に食べてほしいとか、男性の求める目線で商品が発信されることは非常に少ない。ショコラは高級な嗜好品だと思われがちですが、大切な方にショコラをプレゼントしたり、ご自身でも楽しめる男性って、それこそダンディで素敵じゃないですか。作り手のみならずお客様の想いが賜物として詰まっています。その想いの価値が、これからますます理解されていく時代がくる、私はそう考えます。若い男性がJOHN KANAYAをきっかけにダンディズムに目覚めたり、鬼怒川金谷ホテルに女性をエスコートするようになる。そんな艶やかなブランドになれば、いいですね。JOHN KANAYAを大切な方と大切な時間をすごすときに選ばれるブランドにしていきたいです。この5年間はギフトへの想いからブランドづくりをお手伝いしてきましたが、これからはカジュアルにも舵をきって、ブランドを知ってもらうきっかけづくりをしたいと考えています。ファッションにせよチョコレートにせよ、商品が学びのステージにならないといけない、そのクオリティーを備えていなくてはならないと思います。少し背のびしてでも、いいものをたくさん知って、それを通じて文化の香を嗅ぎ、人生を豊かにしてゆく。そのお手伝いをJOHN KANAYAというブランド、なかでもショコラが担っていければ、うれしいですね。
2018年5月掲載
40代から独学でチョコレートについての知識を深め、原料調達から調理・加工、商品開発まですべての工程を知り尽くした異色のショコラティエ。「チョコレートを通じて、様々な人の人生を豊かにする」ことを理念に掲げ、国内老舗名門菓子店、星付きレストラン、有名ファッションブランドなどから依頼され、チョコレートの開発を手掛けている。
鬼怒川金谷ホテル創業者ジョン・金谷鮮治が、1971年にオープンしたレストラン「西洋膳所ジョンカナヤ麻布」。その「和のモダン」の思想を継承しつつ、つねに新しくハイファッショナブルな珠玉のショコラ菓子を提供することで、セレブリティたちの間で話題となり、メディアでも紹介されている。
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