issue 27

清水の里が育む美食の魚
プレミアムヤシオマス

荒川養殖漁業生産組合

美しい水田が広がり清水が渾々と湧く栃木県さくら市早乙女。そこにプレミアムヤシオマスが育つ荒川養殖漁業生産組合があります。美食家垂涎すいぜんの魚をめぐり、同組合総務部部長の渡邊学さんと鬼怒川金谷ホテル料理長の青森晃司が対話しました。

ヤシオマスの秘密

青森晃司(以下、青森) 渡邊さん、養殖場をご案内いただきありがとうございました。風光明媚な里で鬼怒川金谷でもご提供しているプレミアムヤシオマスが元気に泳ぎ活き活きと育っている。その美味しさの秘密が肌で感じとれたような気がしました。こちらのヤシオマスの特長とは?
渡邊学(以下、渡邊) ここでは昭和47年にまず鮎の養殖が始まりました。ヤシオマスは10年前からです。「天然より天然」をモットーに、清水での飼育に3年をかけ、清水で10日以上の餌抜きをします。川魚特有の臭さはまったくありません。うちのヤシオマスは全てメスです。品種改良により産卵をしないんですね。栄養分を卵にとられることがなく、肉質がどんどん良くなって育ちます。
青森 餌はどんなものを?
渡邊 魚介にオリーブオイルを配合した特注餌です。ヤシオマスの特長は豊潤でやわらかい肉質、とろける脂、川魚とは思えないクリアな味香です。その秘密は「オレイン酸」の含有量にあって、うちのは300mg/g以上です。一般的なキングサーモンが250mg/gですから。オレイン酸向上はイベリコ豚が有名で、うちはそれを川魚養殖に取り入れた日本でも最初の組合だと思います。

荒川養殖漁業生産組合

「水が命」の養殖法

青森 プレミアムヤシオマスを養殖する清水が地下水だということに衝撃を受けました。
渡邊 薬剤は一切使わない養殖方法です。どんなにきれいな河川水でも微量の濁りや汚れが混ざり、魚を傷つけたり着臭がでたりするんですね。ここの地下水は喜連川の伏流水。栃木県内でも屈指の清水で、養殖の要になっています。鮎も鱒もその土地の水や餌で味や香が変わると言われています。水が命だと私は思うんです。
青森 「水が命」。海のない栃木県の人々は水を大切にするし、水がきれいな土地柄ですよね。私も栃木の生まれです。そんな素晴らしい魚をどう美味しくするか…。
渡邊 プレミアムヤシオマスをどうお考えですか?
青森 川魚を超える川魚。身がしっかりして、本当に扱いやすくて。生でも、焼いても、どう料理しても美味しい。ヤシオマスを刺身で食べたら香が良くて、海の魚の刺身と言われてもわからないような。衝撃でしたね。この秋もヤシオマスの一品をご提供します。
渡邊 実際にどう料理されるのか興味がありますね。
青森 ヤシオマスは柑橘と合うイメージがありますが、ストレートに柑橘と合わせるのではなく、秋のフルーツと合わせて。いちじくなど、秋はよくフルーツを白和えにします。そこにヤシオマスを低温調理して。低温で魚をコンフィにすると、箸でも崩れるような、ほろほろ感になるんですよ。皮面だけをパリッと焼いて食感のアクセントにしたり。ぜひ、鬼怒川金谷ホテルでご賞味いただけたら嬉しいです。

荒川養殖漁業生産組合

育てる者、料理する者

青森 プレミアムヤシオマスの祖先は日光のニジマスですよね。
渡邊 はい。明治期のスコットランド人商人トーマス・グラバーや中禅寺湖畔に駐留した外交官、皇族なども栃木のニジマスを食していた記録があります。有名なのは、日光金谷ホテルの二代目料理長の渡部信太郎が考案した「日光虹鱒のソテー 金谷風」でしょうか。小説家の池波正太郎はよく日光金谷ホテルに逗留していたようですが「よき時代の日本の洋食」と随筆に書いています。
青森 ヤシオマスの卸先はフレンチやイタリアンのレストランが多いですか?
渡邊 そうですね。旅館の和食部門では塩焼きや西京焼きが多いそうですが。鬼怒川金谷ホテルではヤシオマスをすごく多彩にお料理してくださいます。
青森 昨年冬の金谷流懐石料理では焼いたヤシオマスを蕪のすり流しと合わせてみたり。グループ全体では、洋食でも和食でもスモークにするのが一番多いようですね。春は自分たちでスモークして使っていました。あとはそのまま刺身だったり、幽庵焼きで提供したこともありましたね。
渡邊 金谷ホテル観光グループさんの使用量の多さにはね、私らもびっくりしているところです。鮎なら1日で60〜180尾くらい。それが1年間ですから。ヤシオマスならフィーレやスキン、冷燻もいきますよね。以前はイワナがたくさん使われましたけど。この暑さで生産量が安定していない。
青森 ホテルの立場からですと、どんなにクオリティーの高い食材でも、安定供給がされないと使用が困難になります。もちろん、それには多大なご苦労があって。

荒川養殖漁業生産組合

渡邊 1尾ずつ、本当に丁寧に育てていますから。安請け合いもできません。安定供給のために踏ん張るところではあるんですが。今は春夏秋冬の四季じゃなくて、二季なんですよ。冬と夏。二季なので、成長が止まる場合もあり得るんですよね。私たちは生産者ですから、努力と技で懸命に良いものを供給しようとしています。青森料理長が手を加えないでいける状態までお手伝いしたいところではあるんです。
青森 これだけ高品質のヤシオマスや鮎を大量に養殖するのですから、日々尽力されていると思います。
渡邊 特に温暖化の進む近年は天候に左右されます。魚たちが餌に飛びついてくるような時は問題ないです。魚が知らんぷりして泳いでいたら、どこか体調に異変があります。そういう時は、水を多少抜いて、塩水で洗い消毒してあげます。薬剤は一切使いませんが、塩水だけは使うんです。エラ消毒になるんですね。創立以来、昭和47年からずっとその繰り返しです。養殖場の水が濁ったこともほとんどありません。
青森 この暑さだから、魚たちにも影響が。
渡邊 ありますね。魚の泳ぎ方がふらついたりすると、異常のサイン。でも、このヤシオマスという魚は通年飼われている魚ですけど、結構丈夫な魚ではあるんですね。栃木県でプレミアム化されてからも生産量が増えている。異変にも強い魚なのでしょうね。

荒川養殖漁業生産組合

ヤシオマスへの期待

青森 おかげさまで、私たち金谷の料理人が受け取るヤシオマスは新鮮で活きがいい。そして、元気なヤシオマスの体に表れる淡い紅色は本当に美しく見事です。この色彩は生来のものですか?
渡邊 飼育環境と餌にもよります。短時間だとやっぱり色が出ない。ある程度、良質な餌を長く食べさせる。長く食べさせると経費がかかる。けれども、私たちはビシッと経費も手間暇もしっかりかけて。幼魚の頃は一般的な餌、1キロぐらいから高価な特注餌を与えます。栃木県が10年前にネーミングやラベルを全国に応募しました。日光地区にはヤシオツツジがあります。ピンク色の綺麗な花が咲くので「ヤシオマス」に。ですので、ヤシオマスのシンボルカラー、ピンクにはこだわります。肉色はサーモンカラーチャートの28を超えるようにしています。

荒川養殖漁業生産組合

青森 私は生まれ育った栃木、地元の旬の食材を積極的に使いたい。栃木にはこんなにも知られざる名品があると。お客様が遠方から鬼怒川に来られる意味、食を通じて、栃木という土地の豊かさを味わい、その良さを知っていただきたいのです。
渡邊 私も栃木の那珂川育ちです。父親は川漁師で、天然鮎、天然鰻、鮭とか蟹とかウグイの漁で生活していました。私も子どもの頃から魚が好きで、この仕事を始めて、鮎か川魚を触っていれば満足の48年になります。
青森 それでは、お互いに栃木の食物や食文化には思い入れと期待がありますね。
渡邊 コロナ期にね、テレビ局がいっぱい来たんですよ。ヤシオマスが美味いということで。そういうのもあって、やっと名前が知られるようになりました。これからも全国のお客様が鬼怒川金谷ホテルに宿泊して、「これがヤシオマスか」と舌鼓を打っていただければ、私たちの努力も報われるようで嬉しいですね。
青森 お客様はプレミアムヤシオマスが美味いという前提で来られます。とはいえ、魚を美味くするも不味くするも、最後は料理人の腕。ヤシオマスの需要は洋食がメインかもしれませんが、私は「和敬洋讃」の金谷流懐石料理でその可能性を広げたい。生産者様の想いやご苦労に恥じないように、私たち料理人も美味しいヤシオマスの一品を作りつづけたいと思います。

荒川養殖漁業生産組合

(取材協力 荒川養殖漁業生産組合 渡邊学さん)

2025年8月掲載

荒川養殖漁業生産組合

荒川養殖漁業生産組合

所在地: 〒329-1414 栃木県さくら市早乙女3071
当館より車で約50分※カーナビゲーションをお使いのお客様は、施設名称もしくは電話番号で検索して頂けますようお願いいたします。

営業時間:8:00-18:00

電話: 028-686-2551

https://www.arakawayoushoku.or.jp

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