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金谷流懐石料理に欠かせない栃木の名産「日光湯波」。でも、栃木産のゆばを「湯波」と記し、京都産のゆばを「湯葉」と記すのは、なぜ? ゆばをめぐる歴史物語から、日光湯波の意外な由来と味の秘密がみえてきます。今回のKANAYA PREMIUMは日光湯波の地元造り手を特別取材。鬼怒川金谷ホテル総料理長による和食材としての特長と、家庭でもできる料理法を伝授。日光湯波を歴史と味覚の両面から味わい尽くします。
ゆばは、空海上人や最澄上人をはじめとする唐留学から帰国した仏教僧たちが、日本に伝えたとされています。
中国禅の寺院生活に不可欠だった香、茶、精進料理は、高野山金剛峯寺や比叡山延暦寺でも用いられ、旅僧や修験道の山伏によって関西から全国へ伝播していきます。そのなかに、ゆばもありました。
当時の寺社のほとんどは山中にありました。江戸後期まで、大多数の日本人には獣肉を食べる習慣がなく、穀物、野菜、山菜が主な食糧。とるのに手間隙のかかる川魚や鳥は貴重でした。なかでも、山から山へ疾駆する修験道者の修行は肉体的にも大変きびしく、山中でも手軽にとれる栄養価の高い食物がもとめられたのです。
各寺院と神社は、山での行や長旅に適した保存食の製法を磨き、軽量で携行しやすい高野豆腐や乾燥ゆばを編みだしました。
天平神護2年(西暦766年)、勝道上人により日光東照宮内に開山された輪王寺にも、ゆばは伝えられました。そして、江戸時代初期に徳川家康公が祀られるようになり、日光東照宮講の宿で精進料理が一般参拝者にも食されるようになります。日光の宿や精進料亭で独自に工夫、改良されたゆばは「日光湯波」として評判をとり、栃木の名食として全国に知られるようになったのです。
ゆばの長い歴史のなかでも、京都発祥のゆばは「湯葉」と書き、日光産のゆばは「湯波」と書きます。そのちがいは日光湯波の製法と特長にあるとか。栃木産湯波の造り手を訪れ、その秘密を教えていただきました。
日光湯波は栃木の豊富で清浄な伏流水に、300kgもの大豆を約15時間つけこむことからはじまります。原料の国産大豆は栃木産「里のほほえみ」を中心に複数種を使用。大豆をすりつぶし、六つもの煮釜で35〜120度まで丁寧に段階的に炊いていきます。
翌早朝、煮上がった大豆をしぼり機でおからと豆乳にわけていきます。豆乳を各ステンレス箱に流しこみ、90~95度で加熱していきます。すると、豆乳の表面に膜がはり、ゆばができました。これを熟練工たちが、確かな技術と経験を頼りに引き上げていくのです。
日光の「湯波」は、ゆばを引き上げた後、二重に折り上げます。京都の「湯葉」は、ゆばが一枚のみ。日光湯波にはふっくらと贅沢な厚みがあり、表面が美しく波うっているので、「湯波」なのです。
「京湯葉はうすくて何枚でも食べられます。日光のたぐり湯波は肉厚で柔らかく、もちもちした食感が絶妙ですね。食べ応えもあって見栄えもします。歴史と情緒のある高級食材です」。
そう語るのは、鬼怒川金谷ホテル総調理長。金谷流懐石料理にとって、日光湯波は欠かせない和食材であると同時に「どんな料理とも楽にとりあわせられるし、いいアクセントにもなって、完璧な和食材ではないでしょうか」と絶讃します。そんな総料理長に、家庭でもできる、日光湯波の美味しい食し方をうかがいました。
「日光湯波は、夏の金谷流懐石料理でも幸盛り、吸物、煮物など大活躍してくれています。春冬は茶碗蒸によくはいりますね。
日光湯波を家庭で食すなら、生湯葉のお刺身がおすすめです。生湯波は、もうそれ自体で完成されています。湯波は二枚折り上げなので、湯波のあいだに豆乳がのこっていて、舌ざわりも滑らかでジューシーです。栃木の家庭では、生湯波と茹でたほうれん草を刻み和えし、熱いご飯にかけて食べますね。天ぷらもいいですよ。
ほかに、湯波と野菜のふくめ煮がおすすめでしょうか。コツは、鍋ではなく蒸器で、低温でじっくり時間をかけて炊くこと。鰹のききすぎた出汁をつかわないことです。出汁は昆布や白だしを中心に、なるべく淡い味で、色つけもごくうすくがいいですね。
野菜と湯波は別々に煮ふくめます。野菜はしっかり味つけし、そこに湯波をつけあわせる感覚です。すると、湯波本来のふくよかな大豆の甘味と香が愉しめます。炊いた湯波は冷蔵庫で三日間くらい保存できます。さまざまな料理に簡単に応用できて便利ですね」。
歴史ある名食、日光湯波をご家庭でもご賞味いただき、鬼怒川金谷ホテルのプロの味も、ぜひ、ご堪能ください。
(取材協力 日光ゆば製造日光工場)
2020年5月掲載
世界遺産、日光東照宮へ献上している商品で、
鬼怒川金谷ホテルのお食事でも採用しています。
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